モンティ・ホール問題
問題
あるクイズ番組で優勝者の前に 3 つの箱が用意されました。1 つには賞品が入っていますが、残りの 2 つは空っぽのハズレです。司会者はどの箱に賞品が入っているかを知っています。
優勝者は 1 つの箱を選びました。司会者は残りの 2 つから 1 つのハズレの箱を開けた後にこう言います。「選んだ箱のままにしますか? それとももう一つの箱に変更しますか?」
優勝者が賞品を当てたければ選択を変更すべきか?
1990 年に話題になったとき、著名な数学者を含む多くの人が「同じ確率だから選択を変える必要はない」と答えた問題。最終的な状況を客観視すると、選択可能な箱が 2 つあってそのうちのどちらかが当たりであることから、どちらを選んでも確率は 1/2 に思える。司会者がハズレの箱を間引いたところで当たりの箱は何も影響を受けていないので確率が 1/3 から 1/2 に変化しただけだろう、ということだ。
実際の解法は以下のようになる。
\(n\) 個の箱のいずれかを当たりとする。この時、何の事前条件もないため各箱の当たりの確率は均等に \(\frac{1}{n}\) である。
回答者が選んだ箱が当たりである確率は \(p = \frac{1}{n}\)。他方、回答者が選ばなかった \(n-1\) 個の箱に当たりが含まれる確率は \(p_X = \frac{n-1}{n}\) である。
「\(n\) 個の箱のうち選ばなかった \(n-1\) 個の箱」と「\(n-1\) の箱のうち 1 つが当たり」を同時確率として考えると、選ばれなかった各箱の当たり確率は \(p_x = \frac{n-1}{n} \times \frac{1}{n-1} = \frac{1}{n}\) とも書ける。
選ばれなかった箱の中から司会者がハズレの箱を一つ取り除いたとしても、回答者が選択した箱が当たりである確率 \(p = \frac{1}{n}\) と、選ばれなかった箱の中に当たりが含まれる確率 \(p_X = \frac{n-1}{n}\) には変化がない。ただし、選ばれなかった箱の数 (母数) が一つ減ったことで、箱 1 つの当たりの確率は \(p_x' = \frac{n-1}{n} \times \frac{1}{(n-1)-1} = \frac{n-1}{n(n-2)}\) と修正される。
- 箱の数が \(n=3\) のとき、回答者が選択した箱が当たりである確率は変わらず \(p=\frac{1}{3}\) であるが、選択しなかった箱が当たりである確率は \(p' = \frac{2}{3}\) と 2 倍になっている。
したがって選択する箱を変更したほうが当たる確率は高くなる。選択されなかった箱のグループは司会者がハズレの可能性を 1 個分除外したことで当たりの確率が上がったわけである。
ベイズの定理による解法
箱 1 から箱 3 までのうち回答者は箱 1 を選んだとする (番号は便宜上で意味はない)。このとき事象を以下のように設定する。
- \(X\): 司会者がハズレの箱3を開けた
- \(Y_1\): 箱1が当たり
- \(Y_2\): 箱2が当たり
- \(Y_3\): 箱3が当たり
「司会者が『箱 3 を開けた』あとに『箱1が当たりの確率』『箱2が当たりの確率』をそれぞれベイズの定理より求める。\[ \begin{align*} P(Y_1|X) & = \frac{P(X|Y_1) P(Y_1)}{P(X)} \\ P(Y_2|X) & = \frac{P(X|Y_2) P(Y_2)}{P(X)} \end{align*} \] ベイズの展開定理より分母は以下のように展開できる。\[ P(X) = P(X|Y_1)P(Y_1) + P(X|Y_2)P(Y_2) + P(X|Y_3)P(Y_3)) \] ここでそれぞれの確率は以下のように考えられる。
- \(P(Y_1) = \) 箱1が当たりである確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(Y_2) = \) 箱2が当たりである確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(Y_3) = \) 箱3が当たりである確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(X|Y_1) = \) 箱1が当たりであるときハズレは 2 か 3 であるため司会者が箱3が開ける確率は \(\frac{1}{2}\)
- \(P(X|Y_2) = \) 箱2が当たりであるときハズレは 1 か 3 であるが回答者が選んでいる 1 を開けることはできないため箱3が開けられる確率が \(1\)
- \(P(X|Y_3) = \) 箱3が当たりでなかったことは確定しているため確率は \(0\)
以上より、箱 2 を選択すれば当たる確率が倍であるため選択を変えた方が良いと言える。\[ \begin{align*} P(X) & = \frac{1}{2} \times \frac{1}{3} + 1\times\frac{1}{3} + 0\times\frac{1}{3} = \frac{1}{2} \\ P(Y_1|X) & = \frac{\frac{1}{2} \times \frac{1}{3}}{\frac{1}{2}} = \frac{1}{3} \\ P(Y_2|X) & = \frac{1 \times \frac{1}{3}}{\frac{1}{2}} = \frac{2}{3} \end{align*} \]
黄色でマークした前提条件がなければ箱1, 箱2 共に当たる確率が \(\frac{1}{2}\) となるだろう。
モンテカルロ法によるシミュレーション
当たり回数 | 0 | |
変更なし | 0 | 0.0% |
変更あり | 0 | 0.0% |
3人の囚人問題
3人の囚人問題はモンティ・ホール問題と同類の問題である。
ある監獄でお互いに連絡のできない独房に 3 人の死刑囚 A, B, C が入っていた。あるとき、国の祝賀で恩赦が出て 3 人のうち 1 人だけが助かることになった。ただし誰が助かるかは教えられなかった。
そこで死刑囚 A は「私以外の 2 人のうちどちらが死刑になるのは分かりきっているんだから、どちらが死刑なのか教えてくれてもいいだろう?」と頼んだ。すると看守は「B は死刑になる」と答えた。それを聞いた A は「助かる確率が \(\frac{1}{3}\) から \(\frac{1}{2}\) になった!」と喜んだ。
ベイズの定理による解法
事象を以下のように設定する。
- \(X\): 看守が「B は死刑になる」と言う
- \(Y_A\): 囚人 A が恩赦を受けている
- \(Y_B\): 囚人 A が恩赦を受けている
- \(Y_C\): 囚人 A が恩赦を受けている
「看守が『B は死刑になる』と言った時に『囚人 A が恩赦を受けている確率」をベイズの定理より求める。\[ \begin{align*} P(Y_A|X) & = \frac{P(X|Y_A) P(Y_A)}{P(X)} \\ & = \frac{P(X|Y_A) P(Y_A)}{P(X|Y_A)P(Y_A) + P(X|Y_B)P(Y_B) + P(X|Y_C)P(Y_C)} \end{align*} \] ここで:
- \(P(Y_A) = \) 囚人 A が恩赦を受けている確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(Y_B) = \) 囚人 B が恩赦を受けている確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(Y_C) = \) 囚人 C が恩赦を受けている確率 \( = \frac{1}{3}\)
- \(P(X|Y_A) = \) 囚人 A が恩赦を受けているとき B か C のどちらかが死刑であるため B が死刑だと伝えられる確率は \(\frac{1}{2}\)
- \(P(X|Y_B) = \) 囚人 B が恩赦を受けているときに B が死刑だと伝えられることはないため \(0\)
- \(P(X|Y_C) = \) 囚人 C が恩赦を受けているとき死刑は A か B だが A 本人が死刑と伝えられることはないため B が死刑と伝えられる確率が \(1\)
以上より、「B が死刑になる」と A が聞いても A が恩赦を受ける確率は \(\frac{1}{3}\) から変わっていない。\[ \begin{align*} P(Y_A|X) & = \frac{\frac{1}{2} \times \frac{1}{3}}{\frac{1}{2} \times \frac{1}{3} + 0\times\frac{1}{3} + 1\times\frac{1}{3}} = \frac{1}{3} \end{align*} \]
では同じ状況で C が恩赦を受ける確率はどうなっているだろう。\[ \begin{align*} P(Y_C|X) & = \frac{P(X|Y_C) P(Y_C)}{P(X|Y_A)P(Y_A) + P(X|Y_B)P(Y_B) + P(X|Y_C)P(Y_C)} \\ & = \frac{1 \times \frac{1}{3}}{\frac{1}{2} \times \frac{1}{3} + 0\times\frac{1}{3} + 1\times\frac{1}{3}} = \frac{2}{3} \end{align*} \] 囚人 A が「B は死刑になる」と聞いたことで、囚人 C が恩赦を受ける確率は \(\frac{2}{3}\) に上がった。
黄色でマークした前提条件がなければ囚人 A, C は共に恩赦を受ける確率が \(\frac{1}{2}\) となるだろう。囚人 A の判断はこの点を考慮していなかった。