プレゼンテーション技法

(since 2018年11月13日) Takami Torao #presentation
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presentation

Microsoft de:code 2014 でマイクロソフトのエバンジェリスト西脇さんの「プレゼンの極意」を聞いてからプレゼンの構成や技法について注意深く見るようになった。自分がプレゼンテーションをどう見てるか、どう作っているかについてこのページに記述する。

エンジニアが技術以外で持たなければいけないスキルの筆頭にプレゼンテーションがあると考えている (そして私はそれが苦手である)。どんなに素晴らしいアイディアや設計があってもその素晴らしさを伝えられなければ意味がない。プレゼンの目的は話したテーマをいかに観衆の頭に残すかである (行動科学的にはそこから利用可能性ヒューリスティックの効果が出るのだが、それはまた別の話)。ただし、エンジニアのプレゼンであれば場数と慣れだけで並々程度にはできるようになる。

プレゼンテーションの目的

プレゼンテーションの目的は相手の記憶に残すことの 1 点に集約される。その結果として:

  • 後日、思い出す機会が 1 回以上ある。
  • 後日、調べる/経験するといった具体的なアクションが 1 回以上ある。具体的には:
    • 購入や導入の手続きに入る。
    • 会場を出て家に出るまでの間に検索する。
    • 家に帰って試してみる。
    • プレゼンの内容をブログにまとめたり人に話す。

といった行動が起きれば成功である。

現時点では何のアクションもなくても、記憶に残しさえすれば単純接触効果が期待できるため将来に有利な状況を作ったと見なすことができるだろう。プレゼンでは記憶に残すことを最小成功基準次のアクションにつなげることを最大成功基準とする。

観衆が次に起こすであろうアクションを予測し、用意しておかなければならない。例えば検索して何も出てこないようであればサイトを用意するなどの準備が必要である。

事細かに詳細を伝えることはプレゼンにおいて重要ではないことに注意してもらいたい。興味を持った人は自分で調べるし、自分で調べた方が体験としてより強く記憶に残る。プレゼンはマニュアルの朗読会ではない。

観衆の先にある何かを想像する

しばしば言っていることだが、コンサルティングの基本は客の客に注目することである。聴衆が何を目的に来ているかを考えたとき、以下のような人たちが含まれている、あるいはこのプレゼンによってそうなることを前提とすべきである。

  • 必要性を理解していて「どうやって稟議に出そうか」と考えている見込み顧客。
  • 先見性を感じて「どうやって記事にしようか」と考えているブロガー。
  • 魅力を感じて「どうやって布教しようか」と考えている熱心な支持者。

重要なのは彼らは意識/無意識にかかわらず自分が伝えるための表現を借りに来ているということである。彼らがあなたのプレゼンから拾う価値があると感じるキャッチーで適切な言葉があるかを十分に検討しよう。

社外秘や販売戦略といった情報を含まないのであれば、彼らが別の場所で利用できるようにプレゼン資料で Creative Commons ライセンスを明記する事が好ましい。このためにはライセンス不明の画像やコピペされた文章を利用していないし、不必要な内輪ネタや誤解を招く表現を資料では使わないといった配慮が必要である。

フレームワーク

魅力的で分かりやすいプレゼンにはほぼ全てに共通するフレームワークが存在している。どのようなプレゼンであっても、このフレームワークを意識することで伝えたいことが明確にすることができるだろう。

プレゼン時間や内容、想定する相手によって合わせる必要はあるが、ここで述べるフレームワークの基本構成は Fig.1 である。

Presentation Framework
Fig. 1 プレゼンテーションの基本構成

1 結論までの導入

1.1 はじめは「なぜ」から

良いプレゼンテーションのほとんどは導入部分でなぜこれが必要なのかをはっきりと訴求する。

1.1.1 問題提起型
1.1.1.1 現状説明と問題提起

大きめのテーマを語る場合の多くが「なぜ」のとっかかりに現状の説明と問題提起を使用している。

プレゼンでも講話でも論文でも、全ての導入は「だから私はこの場を借りてこれを紹介する必要があるのだ」という態度で臨まなければいけない。「だから」を導く疑問詞は「なぜ」である。したがって、WHY から初めて BECAUSE で紹介したいものにつなげる構成をとる。

世界の○○はどんどん××しつつある。
なぜ世界の○○はこんなにイケてないのか?
現在○○は××と言われています。でも本当にそうでしょうか?

「世界」は「日本」「社会」「業界」「顧客」「製品」などプレゼン目的のドメインに置き換える必要があるが、まず最初に話者と観衆とで現状の問題を共有する。問題の具体的な裏付けは WHAT セクションで行うためここでの主張は観衆の共感性に注力すれば良い。観衆にとってその問題が身近で切実で興味深いほどプレゼンの内容は頭に入ってくるだろう。

1.1.1.2 あるべき姿と理想

時間が短ければ問題提起の後すぐ「だから」と結論につなげても良いが、見栄えのするプレゼンでは次に本来あるべき姿を語り理想型を共有する。

本来、○○は××だったはずだ。
世界はもっと××であるべきだ。
1.1.1.3 理想を実現する仮定

理想型の後に置かれるのがその理想を実現するための仮定である。もし観衆の問題意識が薄いテーマに切り込むのであれば、白々しく聞こえる問題提起をバッサリと切ってこのイマジネーションから入ることもある。

では、もしこんなものがあれば世界はどう変わるだろうか。
本来あるべきイケてる姿になるのではないだろうか。
1.1.2 シンプルな疑問型

問題提起型の欠点はテーマが重くなりがちという部分である。時間が短く軽いテーマであればシンプルな疑問を投げかけるだけでもよい。この場合、短い言葉で共感を得るために身近な例が良い。まずは現状説明から入り

○○な人は毎日××を利用していますよね。
機能も○○がニュースになっていました。
○○するのは大変ですよね。

疑問を投げかける

○○が成功した理由は何だと思いますか?
なぜ○○が選ばれているのでしょうか?
皆さんはどんな基準で○○を選んでいますか?
果たして本当にそうなんでしょうか?

観衆の一人に回答を求めて会場の一体感を出す効果を狙うケースも多いが、選んだ人の嗜好や会場の空気によってはマイナスに働くこともある。ここでは観衆が頭の中で考えれば良いことなので間を置かずに自分の答えを出しても良い。疑問に対する理由を明かしをして結論につなげる。

私の場合では○○が良いと思っている理由です。ですからこれが必要です。
多くの方々はここで○○と感じると思います。これは××が理由です。我々がそうするためにはこれが必要です。
1.1.3 意外性型

紹介したいものと全く関係のない説明、あるいは突拍子もない持論から入って観衆の興味を向ける方法もある。ただし少し高度でプレゼントよりもニュースの大衆論説や講話、説法向けの手法ではある。

坂本龍馬に言わせれば、人間はスリッパである。なぜならば、…

新規性や革新性の薄いテーマに対しては、何度も聞かされた眠い話よりも坂本龍馬とスリッパからどうやって結論に導くかの方が興味がわくだろう。プレゼンの目的は記憶に残すことであり、導入部分は支離滅裂であっても興味を引くことができれば目的を達成することができる。話が面白く示唆や暗喩に飛んでオッと思わせるような話術があれば BECAUSE につなげることは十分に可能だろう。

だから人類にはこれが必要なのだ。

すでに WHY を十分に共有できている観衆向けには、分かりきった前提をあらためて話すよりも話が面白くなることもある。個人の資質や場慣れ具合寄りではあるが選択肢としては取り得る手段である。

1.2「だから~」「なぜなら~」で前半を締める

そして最後に WHY のアンサーである BECAUSE の文脈を使って前半の WHY セクションを締めくくる。

だから我々はこれを紹介するのだ。なぜなら
だから世界はこれを必要としているのだ。なぜなら

以上を、話のうまい人は実体験や時事ネタ、枕話、あるいは競合製品 DIS などを織り交ぜて話している。「あるべき姿」や「仮定」は話が面白ければ少々大げさに盛っても許されるだろう。それよりもこの WHY セクションで最も重要なテーマは観衆との共感である。

極論的に言えば WHY セクションを締めた時点でそのプレゼンの評価は 80-90% が決定している。なぜなら、問題と理想に共感した人は必然的に方法論に興味が向くからだ。つまりここで「なるほど」「大げさだが確かに」と思った人だけが次の HOW セクションでの「どうやって?」を聞く気になるし、共感できなかった人は居眠りや内職を始めるだろう (自分が共感できなかったら時間の無駄なので退室した方が良い)。さらに言えば、十分に共感できた人ならば方法論は聞くまでもなく家に帰ってから自分で調べ始めるだろう。

2 実現性で説得力を固める

前半の WHY が「目的」だったのに対して後半の HOW, WHAT は全て「手段の説明」である。そして WHY セクションで確立した「共感」に対してこの HOW, WHAT セクションは「説得力」や「実現性」「根拠 (エビデンス)」を整えるパートである。

2.1 問題の対象を明確にする

まず観衆と共有した問題が何であるかをデータに基づいた実例や推論で具体的に示す。加えて、この問題が解決すれば相手にとってどれだけ利益になるかは皆まで言わずともかならず含ませておく。

我々のシステムでは○○は××程度で頭打ちとなりスケールしなくなった。このため年間△△程度の利益を取り逃がしている。
調査会社によれば手作業で○○をしている小売店が××%に上る。年間の経費にして○○円。○○をプラットフォーム化して提供すればこのような効果がある。
この問題は年間でこのように増加傾向にあります。しかし我々のこれによってここまで下げることができます (下がった分は世界/日本/社会/業界/皆さんの利益や成果です)。
現在○○の需要があるにもかかわらず××で導入できないケースが年間この程度あります。これが我々の潜在需要です。これは○○に置き換わるものです。

2.2 解決方法を説明する

次にその問題をどうやって解決しているかについて説明する。

HOW セクションの目的は「この方法で本当に先の問題を解決できるのだろうか」「コストに対してどれだけの見返りがありそうか」という疑問を解消することである。あるいは、過去に同じ問題に取り組んだ人は「我々はできなかった問題にどう対処したのだろう」と見ていることも考慮する (不必要に先人を腐さないこと)。

勘の良い聴衆であれば WHY と WHAT を説明した段階で実現手段の算段は付いていて、HOW セクションはその答え合わせモードに入っていることもある。

HOW セクションで最も成功と言える反応は「その手があったか!」である。ただし、ビジネスでは「確かにこの方法で問題は解決できるだろうが、我々がやれと言われたら難し (面倒くさ) 過ぎて事業としてやってるところに委託するのが良いな」であれば十分に成功である。

ではその仕組みを説明しよう。

2.3 予定やロードマップを示す

WHEN は必須ではないが入ると実現の具体性がグッと上がるし、アクションを起こそうとしている聴衆も予定を考慮することができるだろう。ロードマップのようなものがあれば最後に入れると良い。

○月に第一弾、×月に第二弾をリリースする予定です。
品薄になっておりまして、今申し込みいただければ来月には提供が可能です。

2.4 次のアクションを示す

最後の締めの段では、プレゼンを見終わって共感した観衆に行って欲しい次のアクションを提示する。

当社営業が後ろにおります。ご興味をもたれた方は是非お声がけください。
興味を持たれたかたは是非○○で検索してください。××でも試すことができます。
我々の活動に賛同して頂ける方は○○までご連絡ください。
より詳しい説明会を○日の展覧会で行います。ぜひご参加ください。

加えて、次のプレゼンテーションを紹介して壇上を降りるのも良いかも知れない。

考察

この「なぜ」「どうやって」はプレゼンの大枠だが、実際には「どうやって」を説明する時にもよりブレイクダウンした「なぜそうするのか」がスパイラルしていることにも注意を向けて表現すると内容の理解度は高まる。

WHY と HOW のバランスは観衆によって調整する必要がある。例えば、すでに問題意識が共有されているような小さな勉強会では手段の共有を目的に来ている人が多いため WHY は認識合わせ程度で HOW を重点的に話した方が良いだろう。ただし、話題の脱線を防止するためにも WHY はあった方が良い。逆に専門外の人や大人数で様々な背景の人に向けてのプレゼンは WHY を中心に話した方が良いだろう。

WHY が重要だと述べたが HOW を軽視して良いという意味ではない。理想をきらびやかに語ったにも関わらず HOW の段で実現性が伴わなければ観衆には「ただの理想(妄想)か」「やってる PR だけで実現の目処はなさそう」「そう上に言われて/株主に言った手前のポーズかな」といった印象の方が強くなるだろう。

その逆で HOW, WHAT しか説明していないケースでは ─ エンジニアのプレゼンでよく見る失敗ケースなのだが ─ 観衆は「小難しい話をしている」「何の話をしているんだろう(自分には関係ない)」といった印象になり「おっしゃるとおりですね」で終わって訴求力はゼロに近い。