プレゼンテーション技法
Microsoft de:code 2014 でマイクロソフトのエバンジェリスト西脇さんの「プレゼンの極意」を聞いてからプレゼンの構成や技法について注意深く見るようになった。自分がプレゼンテーションをどう見てるか、どう作っているかについてこのページに書き残しておく。
エンジニアが技術以外で持たなければいけないスキルの筆頭にプレゼンテーションがあると考えている (そして私はそれが苦手である)。どんな革新的なアイディアや設計であっても、その素晴らしさを意思決定者や世間に伝えられなければ意味がない。プレゼンの目的は話したテーマをいかに観衆の頭に残すかである (行動科学的にはそこから利用可能性ヒューリスティックの効果が出るのだが、それはまた別の話)。ただし、エンジニアのプレゼンであれば場数と慣れだけで並々程度にはできるようになる。
Table of Contents
- プレゼンテーションの目的
- フレームワーク
- 1 結論までの導入
- 1.1 WHY: 導入は「なぜ」から
- 1.1.1 問題提起型
- 1.1.1.1 現状説明と問題提起
- 1.1.1.2 あるべき姿と理想
- 1.1.1.3 理想を実現する仮定
- 1.1.2 シンプルな疑問型
- 1.1.3 意外性型
- 1.1.1 問題提起型
- 1.2 BECAUSE:「だから~」「なぜなら~」で前半を締める
- 1.1 WHY: 導入は「なぜ」から
- 2 実現性で説得力を固める
- 1 結論までの導入
- 考察
- 参考
プレゼンテーションの目的
プレゼンテーションの目的は相手の記憶に残すことの 1 点に集約される。その結果として:
- 後日、思い出す機会が 1 回以上ある。
- 後日、調べる/経験するといった具体的なアクションが 1 回以上ある。具体的には:
- 購入や導入の手続きに入る。
- 会場を出て家に出るまでの間に検索する。
- 家に帰って試してみる。
- プレゼンの内容をブログにまとめたり人に話す。
といった行動が起きれば成功である。
現時点では何のアクションもなくても、記憶に残しさえすれば単純接触効果が期待できるため将来に有利な状況を作ったと見なせるだろう。私流のプレゼンでは聴衆の記憶に残ることを最小成功基準、聴衆が何らかの次のアクションを起こすことを最大成功基準に設定している。
プレゼンを観た観衆が次に起こすであろうアクションを予測し、準備しておく必要がある。例えばキーとなる言葉を検索して何も出てこないようであればサイトを用意するなどの準備が必要である。
事細かに詳細を伝えることはプレゼンにおいて重要ではないことに注意してもらいたい。興味を持った人は自分で調べるし、自分で調べた方が体験としてより強く記憶に残る。事実に基づいて主張することは基本中の基本だが、事実の羅列だけで主張や意見の無いプレゼンはやる価値がない。
観衆のペルソナを設定する
伝道者〜観衆の先にいる誰かを想像する
しばしば言っていることだが、コンサルテーションの基本は客の客に注目することである。少なくともわざわざプレゼンに足を運んだほとんどの人はそのテーマについて興味やポジティブな立場を取っていると想定していい。そのような聴衆が何を目的に来ているかを考えたとき、次のような人たちが含まれている、あるいはこのプレゼンによってそうなることを前提とすべきである。
- 「どうやって上司を説得しようか?」と考えている、ソリューションの必要性を理解している見込み顧客。
- 「どうやって記事にしようか?」と考えている、テーマに先見性を見出している記者やブロガー。
- 「どうやって布教しようか?」と考えている、個別のサービスや技術に魅力を感じている熱心なファン。
- 「顧客にもっと訴求できる材料はないだろうか?」と考えている自社の営業や代理店。
重要なのは、彼らはあなたのプレゼンの中から誰かにこの良さを伝える言葉を探しに来ているということである。そんな伝道者がプレゼンから拾う価値があると感じるキャッチーで適切な言葉があるかを十分に検討しよう。
特に、あなたの立場でしか出てこない表現というのはあなたのプレゼンに足を運ぶ価値そのものだ。これは創始者だとか大御所といった意味だけではなく、使った人でないと言えない言葉、問題に対処した人でないと出てこない言葉がきっとあるはずだ。逆に、他人の言葉を多用したりどこかの本で読んだような内容は、あなたの口から聞くより当事者から直接得た方がよく、プレゼンの薄っぺらさを強調する方向に働くので逆効果である。
社外秘情報や権利コンテツを含まないのであれば、聴衆が今度はスピーカーとなって会議などでスライドを再利用できるようにプレゼン資料は Creative Commons ライセンスで公開することが望ましい。このためにはライセンス不明の画像やコピペされた文章を利用していないし、不必要な内輪ネタや誤解を招く表現を資料では使わないといった配慮が必要である。
その筋の人〜専門性の侵害に注意
実際の観衆はテーマから何かを伝えようとしている人たちばかりでもない。例えば:
- 私にとって精通しているテーマだが新しい観点はあるだろうか?
専門性の高い人 (ときにはその方面の第一人者) はその分野において強い発言力と支持者を持っていることが多く、うまく興味をフックできれば強みになるだろう。一方で、間違いの積み重ねが特定のしきい値を超えたり、根本的な解釈が自分の見解と相反しているとなると、自分の専門を稚拙な解釈で侵害された気分になって攻撃的な言動に出ることがある。これが他の事案と相まって炎上やネガティブキャンペーンに発展するかもしれない。
このような意味でも、書籍やネットの情報をまとめただけのような生半可な専門性を主旨にプレゼンを構成するのは良いやり方ではない。自身の体験からしか出てこない表現、明確な正解がなく否定しづらい主観に基づく主張をプレゼンの主旨に設定する方が安全であるし、そもそも専門性の高い人が期待するのは実体験や適用例に基づく意見の方である。
フレームワーク
魅力的で分かりやすいプレゼンにはほぼ全てに共通するフレームワークが存在している。どのようなプレゼンであっても、このフレームワークを意識することで伝えたいことが明確にすることができるだろう。
プレゼン時間や内容、想定する相手によって合わせる必要はあるが、ここで述べるフレームワークの基本構成は Fig.1 である。
1 結論までの導入
1.1 WHY: 導入は「なぜ」から
良いプレゼンテーションのほとんどは導入部分でなぜこれが必要なのかをはっきりと訴求する。
1.1.1 問題提起型
1.1.1.1 現状説明と問題提起
大きめのテーマを語る場合の多くが「なぜ」のとっかかりに現状の説明と問題提起を使用している。
プレゼンでも講話でも論文でも、全ての導入は「だから私はこの場を借りてこれを紹介する必要があるのだ」という態度で臨まなければいけない。「だから」を導く疑問詞は「なぜ」である。したがって、WHY から初めて BECAUSE で紹介したいものにつなげる構成をとる。
世界の○○はどんどん××しつつある。
なぜ世界の○○はこんなにイケてないのか?
現在○○は××と言われています。でも本当にそうでしょうか?
「世界」は「日本」「社会」「業界」「顧客」「製品」などプレゼン目的のドメインに置き換える必要があるが、まず最初に話者と観衆とで現状の問題を共有する。問題の具体的な裏付けは WHAT セクションで行うためここでの主張は観衆の共感性に注力すれば良い。観衆にとってその問題が身近で切実で興味深いほどプレゼンの内容は頭に入ってくるだろう。
1.1.1.2 あるべき姿と理想
時間が短ければ問題提起の後すぐ「だから」と結論につなげても良いが、見栄えのするプレゼンでは次に本来あるべき姿を語り理想型を共有する。
本来、○○は××だったはずだ。
世界はもっと××であるべきだ。
1.1.1.3 理想を実現する仮定
理想型の後に置かれるのがその理想を実現するための仮定である。もし観衆の問題意識が薄いテーマに切り込むのであれば、白々しく聞こえる問題提起をバッサリと切ってこのイマジネーションから入ることもある。
では、もしこんなものがあれば世界はどう変わるだろうか。
本来あるべきイケてる姿になるのではないだろうか。
1.1.2 シンプルな疑問型
問題提起型の欠点はテーマが重くなりがちという点である。時間が短く軽いテーマであればシンプルな疑問を投げかけるだけでもよく、この場合は短い言葉で共感を得るために身近な例を適用するのが良い。まずは現状説明から入り:
○○な人は毎日××を利用していますよね。
昨日も○○がニュースになっていましたね。
毎日○○するのは大変ですよね。
次に疑問を投げかける:
○○が成功した理由は何だと思いますか?
なぜ○○が選ばれているのでしょうか?
皆さんはどんな基準で○○を選んでいますか?
果たして本当にそうなんでしょうか?
ここで観衆の一人に回答を求めて会場の一体感を出す効果を狙う手法もあるが、選んだ人の嗜好や会場の空気によってはマイナス効果に働くこともあることに注意。ここでは理由は観衆のそれぞれが頭の中で思い描けば良いことなので間を置かずに (テンポよく) 自分の答えに進んで良い。最後に疑問に対する理由を明かして結論につなげる。
私の家はよく××に困っているので○○が良いと感じています。ですからこれが必要です。
多くの方々はここで○○と感じると思います。これは××が理由です。我々がそうするためにはこれが必要です。
1.1.3 意外性型
話術のスキルになるが、紹介したいものと全く関係のない説明、あるいは突拍子もない持論から入って観衆の興味を向ける方法もある。ただし少し高度でプレゼンよりも大衆向けのニュース論説や講話、説法向けの手法ではある。
坂本龍馬に言わせれば、人間はスリッパである。なぜならば、…
すでに聴衆が WHY を十分に共有している新規性や革新性の薄いテーマに関しては、何度も聞いた眠い話よりも坂本龍馬とスリッパからどうやってこのテーマに導くかに興味がわくだろう。前述の通り、プレゼンの目的は記憶に残すことであり、導入部分が支離滅裂であっても興味を引いて結論の収まりが良ければ目的は達成である。話が面白く示唆や暗喩に飛んでオッと思わせるような話術があれば BECAUSE につなげることは十分に可能だろう。
だから人類にはこれが必要なのだ。
過去の例だと飼っているペットの話から入ってシステム構築の話につなげていたプレゼンもあった。個人の資質や場慣れ具合よりではあるが、対象とする聴衆によっては選択肢としては考慮しうる方法である。
1.2 BECAUSE:「だから~」「なぜなら~」で前半を締める
そして最後に WHY のアンサーである BECAUSE の文脈を使って前半を締めくくる。
だから我々はこれを紹介するのだ。なぜなら
だから我々はこの技術に注力しているのだ。なぜなら
だから世界はこれを必要としているのだ。なぜなら
以上を、話のうまい人は実体験や時事ネタ、枕話、あるいは競合製品 DIS などを織り交ぜて話している。「あるべき姿」や「仮定」は話が面白ければ少々大げさに盛っても許されるだろう。それよりもこの WHY セクションで最も重要なテーマは観衆との共感である。
極論的に言えば WHY セクションを締めた時点でそのプレゼンの評価は 80-90% が決定している。なぜなら、問題と理想に共感した人は必然的に方法論に興味が向くからだ。つまりここで「なるほど」「大げさだが確かに」と思った人だけが次の HOW セクションでの「どうやって?」を聞く気になるし、共感できなかった人は居眠りや内職を始めるだろう (自分が共感できなかったら時間の無駄なので退室した方が良い)。さらに言えば、十分に共感できた人ならば方法論は聞くまでもなく家に帰る電車のなかで調べ始めるだろう。
2 実現性で説得力を固める
前半の WHY が「問題と目的の共有」だったのに対して後半の HOW, WHAT は全て「解決策と手段の提示」である。そしてこの HOW, WHAT セクションは WHY セクションで確立した「共感」に対して「説得力」や「実現性」「具体性」「根拠 (エビデンス)」を整えるパートである。
2.1 WHAT: 問題の対象を明確にする
まず観衆と共有した問題が何であるかをデータに基づいた実例や推論で具体的に示す。加えて、この問題の解決が聴衆にとってどれだけの利益になるかは皆まで言わずとも必ず含ませておく。
我々のシステムでは○○は××程度で頭打ちとなりスケールしなくなった。このため年間△△程度の利益を取り逃がしている。
調査会社によれば手作業で○○をしている小売店が××%に上る。年間の経費にして○○円。○○をプラットフォーム化して提供すればこのような効果がある。
この問題は年間でこのように増加傾向にあります。しかし我々のこれによってここまで下げることができます (下がった分は世界/日本/社会/業界/皆さんの利益や成果です)。
現在○○の需要があるにもかかわらず××で導入できないケースが年間この程度あります。これが我々の潜在需要です。これは○○に置き換わるものです。
2.2 HOW: 解決方法を説明する
次にその問題をどうやって解決しているかについて説明する。
HOW セクションの目的は「この方法で本当に先の問題を解決できるのだろうか」「コストに対してどれだけの見返りがありそうか」という疑問を解消することである。ここで注意したいのは、過去に同じ問題に取り組んだ人が「我々はできなかった問題にどう対処したのだろう」と観ていることも考慮する必要がある (つまり不必要に先人の失敗を腐さないこと)。
勘の良い聴衆であれば WHY と WHAT を説明した段階で実現手段の算段は付いていて、HOW セクションはその答え合わせモードに入っていることもある。
HOW セクションで最も成功と言える反応は「その手があったか!」である。ただし、ビジネスでは「確かにこの方法で問題は解決できるだろうが、我々がやれと言われたら難し (面倒くさ) 過ぎて事業としてやってるところに委託するのが良いな」であれば十分に成功である。
ではその仕組みを説明しよう。
2.3 WHEN: 予定やロードマップを示す
WHEN は必須ではないが実現の具体性がグッと上がるし、何らかのアクションを起こそうとしている聴衆もプランを立てやすくなるだろう。ロードマップのようなものがあれば最後に入れると良い。また、相手の競合会社が検討に入っていることをそれとなくほのめかす (競合会社がこれを手に入れたらどうなるかを想像させる) のであればここが良い。
○月に第一弾、×月に第二弾をリリースする予定です。
品薄になっておりまして、今申し込みいただければ来月には提供が可能です。
別業界ではこのような成果を上げていて、すでにこの業界の何社様とも協議に入っています。
2.4 次のアクションを示す
最後の締めの段では、プレゼンを見終わって共感した観衆に行って欲しい次のアクションを提示する。
当社営業が後ろにおります。ご興味をもたれた方は是非お声がけください。
興味を持たれたかたは是非○○で検索してください。××でも試すことができます。
我々の活動に賛同して頂ける方は○○までご連絡ください。
より詳しい説明会を○日の展覧会で行います。ぜひご参加ください。
加えて、次のプレゼンやプレゼンテータを紹介して壇上を降りると、場馴れしている安心感を与えられて良い印象で終わることができる。
考察
この「なぜ」「どうやって」はプレゼンの大枠だが、実際には「どうやって」を説明する時にもよりブレイクダウンした「なぜそうするのか」がスパイラルしていることにも注意を向けて表現すると内容の理解度は高まる。
WHY と HOW のバランスは観衆によって調整する必要がある。例えば、すでに問題意識が共有されているような小さな勉強会では手段の共有を目的に来ている人が多いため WHY は認識合わせ程度で HOW を重点的に話した方が良いだろう。ただし、話題の脱線を防止するためにも WHY はあった方が良い。逆に専門外の人や大人数で様々な背景の人に向けてのプレゼンは WHY を中心に話した方が良いだろう。
WHY が重要だと述べたが HOW を軽視して良いという意味ではない。理想をきらびやかに語ったにも拘らず HOW の段で実現性が伴わなければ観衆には「ただの理想(妄想)か」「やってる PR だけで実現の目処はなさそう」「そう上に言われて/株主に言った手前のポーズかな」といった印象の方が強くなるだろう。
逆に HOW, WHAT しか説明していないケース (エンジニアのプレゼンでよく見るアンチパターンなのだが) では、観衆には「小難しい話をしている」「何の話をしているんだろう(自分には関係ない)」といった印象になり「おっしゃるとおりですね」で終わって訴求力はゼロに近い。